2026年10月26日

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エバンジェリストインタビュー:半導体の成長を、世界で戦う力へ。国際ルールと民間ネットワークが支える日本の競争力

上野 一英 氏 TMI 総合法律事務所 パートナー・弁護士

半導体産業への期待が高まる一方で、技術力だけでは世界で競争し続けることはできません。国際ルールをどう読み、交渉し、企業同士の連携をどう形にしていくのかといった視点から企業の挑戦を支えているのが、TMI総合法律事務所の弁護士であり、RISE-Aのエバンジェリストを務める上野一英氏です。
成長の先にはどのようなリスクがあり、日本企業は今、何を備えるべきなのか。国際競争の現場で培った視点と、RISE-Aに期待する可能性から、日本の半導体産業が次の成長を競争力へつなげるために何が必要なのかを伺います。

海外生活で見えた日本の強みと課題。法律を通じて国際競争に向き合う

――まずは、上野さんが現在の仕事に至るまでのご経歴について教えてください。

メーカーに勤めていた父親の転勤で、小学1年生から4年生までアメリカに住んでいました。その経験から、国際的な仕事に関わりたいという気持ちは、ずっと自分の中にあったんです。高校生のときにワシントンD.C.へ短期留学した際には、何か専門性を身につけたいという思いも強くなっていました。

当時の日本は経済的にもかなり強く、良いものをつくれば売れ、それによって日本のプレゼンスも高まっていくような時代だったと思います。ただ、その一方で、それだけでは足りないのではないかという感覚もありました。

国際競争では、良いものをつくることに加えて、自分たちに必要なことをきちんと主張し、ルールがおかしければ声を上げることも求められます。そうした世界があることを、海外での生活を通じて幼いながらに感じていたのだと思います。その経験から、弁護士を目指し始めました。

――海外で過ごした経験は、日本人や日本企業の交渉のあり方を考えるうえで、どのような影響を与えたのでしょうか?

幼い頃から、日本人は自己主張が控えめなのではないかと感じていました。交渉で何かを勝ち取るよりも、お互いに歩み寄って手を握ればよいという、「和をもって尊し」とする考え方は、日本の良さでもあります。

ただ、価値観が多種多様な国際社会においては、お互いの主張をきちんとぶつけずにたどり着いたものだと、本当にベストな合意だったのかが分かりません。互いに異なる意見があるのは当然であり、いわばこれらをぶつけ合うことが「尊い」ものであり、その先に合意できたものであるからこそ、納得感が生まれる。個人として仲が良く、和も大事にするとしても、ディベートや交渉は別ものです。

そうした感覚は、出身、人種、宗教など、より様々な違いを持つ人々のいる海外で過ごした経験の中で少しずつ身についたものかもしれません。その後、「高校生外交官プログラム」というものに参加し、日米の同級生と議論を交わす中で、日本国や企業にも似たような傾向があるのではないかと考えるようになりました。

もちろん、日本には良いものを丁寧につくる文化があり、それは大切にすべき強みです。その強みを活かしながら、ルールや交渉の面で足りない部分を外部から補える人がいれば、日本企業が国際的に競争していくうえでも支えになれるのではないかと考えていました。

――弁護士になった後、条約や国際通商の分野へ専門性を広げていったのは、どのような経緯からだったのでしょうか?

実際に弁護士になってみると、弁護士資格は国内資格であり、裁判例や立法の動向など、国内で蓄積される知識が価値の源泉になります。コミュニケーションツールとして英語は使うものの、内容としては想像していた以上にドメスティックな仕事だと感じました。

最初の頃は、M&Aを中心にしつつも、幅広い仕事に取り組んでいました。一方で、どうすればもっと国際的な仕事ができるのかと考えるようになり、そこで関心を持ったのが条約の分野です。

国内法だけでなく、条約についてもアドバイスできるようになれば、仕事の分野がより広がるのではないかと考えました。世界中の弁護士が参加できる領域であり、厳しくも興味深く感じました。その後、弁護士5年目にワシントンD.C.へ留学し、帰国後は経済産業省に出向しました。そこで国際通商交渉や経済安全保障などの実務に携わり、その経験が現在の専門分野へとつながっています。

良い技術を、売れる技術につなげる。日本企業に求められる交渉とビジネスの発想

――海外企業との契約交渉に携わる中で、日本企業の交渉の進め方について、どのようなことを感じてきましたか?

若手時代に契約交渉をサポートしていると、海外企業からは徹頭徹尾、海外企業側に非常に有利な契約書案が送られてくることがありました。それに対して、こちらも自社に必要な条件を毅然として主張し、そこから交渉を始めることが、互いの利益を最大化するうえで必須だと思います。

しかし、日本企業では「この条件は飲めなくはありません」というところから話が始まります。自分たちにとって何が最善かを考える前に、どこまでなら譲れるかを考えてしまうわけです。現場で交渉を見ていると、そうした思考の違いを感じることがありました。

海外企業も、最初に示した条件をすべて受け入れてもらえると思っているわけではありません。交渉されることを前提に強い条件を主張しています。日本企業も最初から妥協点を探すのではなく、まず自分たちにとって何が最善なのかを整理し、その立場をきちんと示したうえで交渉することが大切だと考えています。「尊い」とされるのは初めから譲歩することではなく、誠実に説明し、交渉するプロセスを重ねることです。

――先端技術を持つ日本企業を見ている中で、技術をビジネスにつなげていくうえでは、どのような課題があると考えていますか?

先端分野では、日本人は開発を突き詰めることが得意で、良い技術をつくる力があります。ただ、優れた技術を生み出すことと、それをビジネスとして成功させることは、別の力になると思います。仕事上、安全保障貿易管理や投資審査などの経済安全保障の文脈で、企業、大学や研究機関の技術や知財担当の方とお話することも多くなり、その議論の中で感じることです。

そのため、技術とビジネスを両輪で考えることが必要です。良いものをつくることだけに集中してしまうと、せっかく高い技術があっても、事業として十分に生かしきれないことがあります。

開発にかけた努力が、ビジネスの設計や進め方によって成果につながらないのは、非常にもったいないことです。技術そのものの価値を高めるだけでなく、それをどう事業として成立させるかまで含めて考えていくことが大切だと感じています。

――そうした課題に気づいている企業も多いと思います。それでも、変化が進みにくいのはなぜでしょうか?

一つには、顧客側のニーズを十分に吸い上げ、それを自社の技術開発の方向性や提案につなげていくことが、必ずしもうまくできていない場合があることかもしれません。

技術そのものを深く掘り下げ、性能や品質を高めていくことは重要ですが、その前に、国内外でどのような社会的ニーズがあるのか、その中で自社の技術がどう貢献できるのかを見て、技術開発や顧客への提案につなげていくことは、また別の能力として重要だと思います。

先端技術では、顧客自身も将来何を必要とするのかを明確に言語化できているとは限りません。そのため、技術開発と顧客や社会との対話を往復することが必要だと思います。良い技術をつくってから売り方を考えるのではなく、社会や市場のニーズを見ながら、技術の方向性自体も磨いていく。そうした循環をつくれるかどうかが、技術をビジネスにつなげるうえで重要なのだと思います。

この点、理化学研究所理事長の五神先生のお話を伺った際のことですが、日本に今どのような技術があるのか、その中でどの技術が将来大きく伸びる可能性があるのか、そして国内外の社会がどのような技術を必要としているのかということを、別々の話としてではなく、非常にシームレスにつないで説明されていました。技術を見る視点と、社会や市場を見る視点が一体になっていて、非常に勉強になりました。

――企業が国際的にビジネスを展開していくうえで、どのような点が重要になるのでしょうか?

良いものをつくり、ビジネスとしてきちんと売るための一要素として、リーガル面も整えておく必要があると考えています。

海外企業の仕事をしていると、法務やリスクの検討に、かなりの時間や費用、リソースをかけていることを実感します。それだけ、事業を進めるための重要な要素として位置づけているのだと思います。

もちろん、そのまま日本企業が取り入れればよいということではありません。ただ、国際的に競争している相手がそうした部分にもコストをかけている以上、日本企業も、契約やルール、リスク管理まで含めてビジネスを考える視点が必要だと感じています。

特に、米中の技術覇権争いに端を発して作られる外国の一方的な規制は、必ずしも日本や他の超大国ではない国にとって良いものとはなっていません。そのような規制の不具合については、実際に不利益を受ける日本などの企業が政府に現状を訴えなければ、改善のきっかけは生じません。

半導体が伸びる今こそ、その先に備える。成長を後押しする国際ルールの重要性

――現在、日本の半導体産業には大きな期待が集まっています。上野さんは、今の状況をどのように見ていますか?

まずは、技術開発の面でしっかり成果を出していくことが前提です。また、それが顧客のニーズ、用途にうまくつながる必要があると感じます。

ただ、半導体産業は、顧客に認められる良い技術力だけで競争が決まるわけではありません。日本企業の存在感が高まれば、それに伴って急激に国際的な競争環境も変わっていきます。そこで、成長した後にどのようなリスクが生じるのかまで見据えながら、今のうちから備えておくことが重要だと考えています。

――今後、日本の半導体産業が成長していく中で、国際的な競争という観点からは、どのようなことを考えておく必要がありますか?

半導体では、1980年代に日本企業が急速に競争力を高める中で日米間の通商摩擦が激しくなり、1986年には日米半導体協定が結ばれました。その後、米国による制裁措置も行われ、日本の半導体産業は非常に厳しい国際的な環境に置かれました。他の大国が補助金を活用して自国産業を強化することもあります。日本企業が成長しても、そうした動きによって競争力を削がれる可能性があります。

そのため、国際競争を力関係だけで決めるのではなく、各国が共通のルールに基づいて競争できる環境をつくることが重要です。CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)のような枠組みも活用しながら、日本自身が国際的なルールづくりに関わっていく必要があります。日本にとって望ましいルールを国内だけで考えるのではなく、それを国際的に広げていく視点が求められると思います。グローバルな市場においても「法の支配」をしっかりと貫くための仕組みを考えていくということです。

――企業が海外で不利益を受けた場合なども含め、日本の制度や政策にはどのような課題があると感じていますか?

民間側から声を上げなければ、なかなか動きにくい政策もあると感じています。企業にとって重要な問題であっても、その問題の重要性が国に十分伝わるとは限りません。

例えば、海外で不当な貿易措置を受けた企業が、日本国内で正式に申し入れを行うための法的な手続きは、十分に整っていない場合があります。窓口や手続きが制度として明確になっていれば、企業は声を上げやすくなり、国としても対応を検討しやすくなります。

EUでは、EU企業などが、第三国の貿易措置によって不利益を受けているとして欧州委員会に正式に申し立てることができ、欧州委員会は45日以内に調査を開始するかどうかを判断します。調査を開始した場合には、通常5カ月以内(複雑な案件では7カ月以内)に調査報告をまとめるという手続が用意されています。

このように、企業をサポートする制度や仕組みづくりも必要です。貿易・投資の法律実務に携わる中で、あるべき制度のヒントを得ることがあり、民間の問題意識を政策の議論につなげるために、その間を「翻訳」して橋渡しすることが、私自身の仕事のやりがいにもつながっています。

――半導体業界の企業が海外企業との連携や取引を進める際、契約や交渉の面では、どのようなことに気をつける必要があるのでしょうか?

半導体は国際連携が非常に重要な分野です。ネットワークを強くすることは、企業としての強さにもつながります。

トップ同士の話から連携が一気に進むこともありますが、その後の契約まできちんと詰めなければ、最初に目指していたWin-Winの関係にならないことがあります。重要な連携であればあるほど、その後に「第2の交渉」をきちんと行う必要があるのです。

時間がないからといって、絶対に受け入れられない条件だけを確認して終わらせてしまうと、最初からボタンをかけ違えることにもなりかねません。また、相手方も、弁護士を含めて相応のリソースをかけて契約書を作成していると考えたほうがよいでしょう。

どれほど親しい間柄でも、契約交渉は別です。相手も交渉されることを前提にしているため、怖気づく必要はありません。お互いにWin-Winを目指すのであれば、自分たちの立場をきちんと主張して交渉することは、むしろ誠実なことだと思います。日本企業が国際的な競争力を高めるうえでは、法的な観点からの交渉も、良いものをつくることと同じくらい重要だと考えています。

日本を国際連携のハブに。RISE-Aから広がる半導体ネットワーク

――RISE-Aでは、企業や行政、大学など、さまざまなプレイヤーの連携が進んでいます。こうした連携をどのように捉えていますか?

RISE-Aのような民間レベルの連携は、非常に重要だと思います。半導体は国家的にも重要な産業なので、どうしても国単位で考えがちです。ただ、企業として成功するためには、特定の国だけを前提に考えればよいわけではありません。

これまでは、日本国内の技術や体制を軸に進める考え方が強かった時期もありました。ただ、現在は国際連携を前提に、多方面で戦略を考え、適材適所でチームを組むことがより重要になっています。その意味では、国がつくるフォーラムだけでなく、民間から生まれたネットワークの中でコミュニティを広げていくことに、大きな意味があると考えています。

――その中で、RISE-Aのようなコミュニティには、どのような役割や可能性があると感じていますか?

RISE-Aは、民間でありながら業界団体ではなく、コミュニティとして存在しているところがユニークです。国が主催する場には、政策を動かすうえでの強みがある一方で、民間のコミュニティには、より自由度高くネットワークを広げ、海外ともつながっていける面があります。

日本は国際的に見ても、さまざまな国や地域をつなぐハブになりやすい立場にあると感じています。アメリカや欧州発のグローバルなプラットフォームは多いですが、日本から広がるものがあってもよいはずです。RISE-Aには、そうした国際的な連携を広げていける可能性があると考えています。共同開発に重点を置いているわけではなく、業界団体でもない。よりニュートラルな位置付けに、国内外から求められるRISE-Aのポテンシャルがあるように思います。

――今後、RISE-Aがさらに発展していくために、どのような広がりを期待していますか?

まずは、コミュニティとして存在し続けること自体に大きな意味があると感じています。半導体は、日本だけでなく世界各国で国や企業が力を入れている分野です。その中でRISE-Aがユニークな場としてあり続ければ、その時々の新しいニーズや連携の可能性を取り込んでいけるはずです。

実際、半導体業界の方と話していてRISE-Aの名前を出すと、すぐに理解していただけることが増え、認知度も高まってきています。そうした共通言語のような存在になりつつあるからこそ、継続して場を育てていくことが重要だと思います。

そのうえで、国際的なつながりもさらに広げてほしいですね。すでにベルギーや台湾、アメリカとの連携がありますが、今後は韓国との連携があってもよいですし、中国とどのようにつながるかも考えていく必要があります。日本発のコミュニティでありながら、海外にも価値を提供できる存在になることで、結果として日本の半導体産業にも還元されていくのではないかと考えています。

――最後に、半導体のように変化の速い分野で新しい事業に取り組む企業に対して、法律の専門家としてどのように関わっていきたいと考えているか教えてください。

最も価値を出せるのは、新しい事業機会がある中で、本当にそれでよいのかを見極める場面だと思います。もちろん、明確なリスクをきちんと確認することは大切です。そのうえで、判断が分かれるグレーな領域を見定めて、「ここまではできる」と示せるところに、専門家としての付加価値があると考えています。

実際、クライアントの中には、「どこまでなら大丈夫なのか」と、ぎりぎりまで可能性を探ろうとする会社もあり、法的な観点も事業判断の一部として活用されています。

特に、半導体のように変化の激しい業界では、単にリスクを指摘するだけでは十分ではありません。どこにリスクがあるのかを正確に捉えたうえで、国や地域によって異なるルールを踏まえ、実際の事業判断にどう落とし込むかが重要です。だからこそ、常に学びながら、企業が新しい事業機会に踏み出すときに、その判断を支えられる存在でありたいと考えています。

プロフィール

上野 一英 Kazuhide Ueno

現職・役職
TMI 総合法律事務所 パートナー・弁護士

略歴・キャリア
専門は国際通商/経済安全保障。米国法律事務所のワシントンDCオフィス勤務を経て、経済産業省通商政策局通商機構部(当時)に出向。
TPP、RCEP等の通商交渉、WTO紛争解決、外国の輸出入規制・不当な補助金などへの対応に従事。
現在は、半導体・先端技術分野、関税を含む経済安全保障法務に対応。国立研究開発法人理化学研究所の法務部で定期的に執務するほか、SEMI Monthly Policy Reportを執筆。経済産業省の委員(「地政学リスクを踏まえた製造基盤強化等に関する検討会」)、経団連21世紀政策研究所の研究委員(「経済安全保障と知的財産」)、学習院大学法学部非常勤講師等を務める。