2026年08月20日

製造テクノロジー,プロセス技術,人材育成,半導体・電子部品関連,大学・研究機関

エバンジェリストインタビュー:半導体開発の参入障壁を下げ、技術を社会へ届ける。産学連携とRISE-Aが生み出す新たな循環

戸津 健太郎 氏 東北大学 マイクロシステム融合研究開発センター(µSIC) センター長・教授 半導体クリエイティビティハブ(S-Hub) ハブ長


半導体の研究開発には、高額な装置やクリーンルームに加え、専門的な知識や経験が欠かせません。「東北大学マイクロシステム融合研究開発センター(μSIC)」は、半導体の設備や技術を外部へ開き、研究開発に取り組みやすい環境を整えてきました。センター長を務める戸津健太郎氏が目指すのは、技術を社会で使われるところまで届けることです。そのためには、半導体を必要とする企業をはじめ、異なる分野の人々との接点も欠かせません。これまで培ってきた産学連携の実践と、RISE-Aで生まれる新たな出会いを手がかりに、その先にある半導体産業の姿を追います。

自分で考え、つくり、社会へ届ける。ものづくりの面白さから産学連携の道へ

――まずは、戸津さんが現在担っている役割について教えてください。

一般的な大学教員とは少し異なり、自分の研究室を持って学生を指導するのではなく、μSICのセンター長として、組織の運営を主な仕事にしています。

μSICでは、半導体の微細加工技術を応用して作られるMEMS(微小電気機械システム)というものを中核的に扱っています。半導体というと、コンピューターの頭脳やメモリとして使われるものを思い浮かべる方が多いと思いますが、私たちが主に扱うのは、周囲の状態を捉えるセンサーや、その情報を処理する回路などです。

こうした技術領域は、「フィジカルAI」が社会実装されるために、AIが現実世界の状態を捉え、判断し、実際の動作につなげるための「現実世界との接点」を担う重要な基盤技術です。医療や自動車、ロボットなど、さまざまな用途にも応用ができます。異なる技術や要素を組み合わせ、新しい付加価値を持つマイクロシステムを生み出すことが、私たちの大きな役割であり、そのための技術開発や企業との連携に取り組んでいます。

――東北大学へ入学された当初から、半導体やセンサーの研究を志していたのでしょうか。

大学に入った時は、半導体にはあまり関心がなく、詳しい知識もありませんでした。研究室を選ぶ段階になってから、東北大学が半導体研究で長い歴史を持つことを知ったんです。授業を受ける中で、微細な領域にはできることが非常に多いと感じ、興味を持つようになりました。

特に魅力を感じたのは、設計から製造、評価するところまでを、一通り経験できることです。ロケットのような大きなものは、一人ですべてをつくることは難しいですが、半導体のセンサーであれば、数カ月ほどで進められます。

短いサイクルで試行錯誤できることが面白く、次第にのめり込んでいきました。東北大学に蓄積されてきた半導体研究の歴史や、技術の進歩によって短い期間で試作できるようになっていたこともあり、ものづくりそのものが楽しかったのだと思います。

――研究室ではどのような環境で、ものづくりに取り組んでいたのでしょうか?

私が所属していたのは、半導体の中でも主にセンサーを扱う研究室でした。

センサーはつくるものによって形も、材料も、工程も異なるため、さまざまな知識やノウハウが必要です。研究室には、設備や技術をできるだけ開放し、大学と企業がそれぞれの経験を持ち寄りながらものづくりを進める文化があります。

定期的に20社ほどの企業が共同研究に訪れており、周囲には学生よりも多く企業の方がいるような環境でした。企業の方々は、それぞれ会社から明確な使命を持って参加しています。そのため、研究にも独特の緊張感があり、当時から製品開発を意識した研究に携わっていました。

――企業の方々と研究する経験を重ねる中で、ご自身の進路はどのように考えていましたか?

もともとは、修士課程を終えたら就職しようと考えていました。しかし、その過程で実用化に近いセンサーを扱うことになり、これを何とか社会で使われる形にしたいという気持ちが強くなったのです。そこで、国の支援も受けながら研究開発を続けるため、博士課程へ進みました。

当時つくっていたのは、髪の毛ほどの太さの血圧センサーです。小型化することで、赤ちゃんの体内で血圧を測ったり、動物実験で薬の作用を調べたりできるようになります。それまで難しかったことを可能にできる点に、ものづくりの醍醐味を感じました。

企業に就職する道もありましたが、大学では一つの製品や企業に閉じず、さまざまな分野の仕事に関われます。自分たちが持つ技術を、多くの企業や研究者に使ってもらえる可能性があることも魅力でした。そうした環境の中で、企業と共にものをつくり、実用化まで進める産学連携に、より強く引かれるようになったのだと思います。

今までにないものを考え、自分でつくり、それを使った方に喜んでもらえることが、私にとって最も面白いことです。ものをつくるだけで終わらせず、社会で使われるところまで届けたいという思いが、現在の仕事にも続いています。

半導体開発の参入障壁を下げる。設備・人・技術を開く「試作コインランドリ」

――μSICが立ち上がった経緯と、そこで始めた取り組みについて教えてください。

2008年に国の大型研究プロジェクトが始まり、既存の半導体研究施設を大学が引き継ぎ、2010年に新たにμSICを設置することになりました。そのタイミングで、半導体設備を外部に開く仕組みづくりを担ってほしいと声をかけていただき、μSICへ移りました。

半導体のものづくりは、もともと参入のハードルが非常に高いものです。高額な装置だけでなく、クリーンルームが必要であり、工程ごとに異なる知識やノウハウも求められます。企業や研究者が、設備をすべて所有することは現実的ではありません。

以前から、コインランドリのように、必要な設備を必要な時間だけ使えるようにすれば、設備を持たなくても半導体の試作に取り組めるのではないかという構想がありました。

大学が引き継いだ施設には、大規模なクリーンルームや半導体製造に使われていた装置が残されており、装置の保守や製造工程に詳しいスタッフもいました。そうした設備と人材を生かし、企業や研究者が必要な時に利用できる「試作コインランドリ」という仕組みを始めました。

――試作コインランドリは、具体的にどのような仕組みなのでしょうか?

以前から、研究室の設備を企業に使ってもらう仕組みはありました。ただ、基本的には共同研究が前提で、年間契約を結び、一定の費用を負担してもらった上で利用してもらう形です。

試作コインランドリでは、事前に登録すれば、装置を時間単位で利用できます。料金は装置によって異なりますが、1時間当たり数千円から使えるため、最初からまとまった費用を負担する必要はありません。

必要な設備を必要な時間だけ使えるため、研究開発の初期段階でも、小さく試作を始めやすい仕組みになっています。

――企業は、どのような事情から試作コインランドリを利用しているのでしょうか?

最も分かりやすいのは、自社だけでは研究開発に必要な設備や人材を十分にそろえられないケースです。ただ、利用するのは中小企業やスタートアップに限りません。最近では、大手企業でも製造ラインは持っている一方、研究開発用のクリーンルームや試作設備までは十分に持たないことが増えています。

企業によって事情は異なりますが、設備、人材、技術のいずれかに制約があり、自社の環境だけでは試作を進めにくいという相談は少なくありません。

私たちが重視しているのは、利用者が試作し、結果や知見を持ち帰り、次の開発へ進めることです。そのため、利用する企業や研究者がどのような成果を得たいのかを踏まえながら、必要な支援を行っています。

――さまざまな利用者を支援する中で、μSICの強みをどのように捉えていますか?

半導体の研究開発では、必ずしも最新の技術や装置だけが必要になるわけではありません。つくるものによっては、以前から使われてきた技術や装置の方が適している場合もあります。その点、大学であれば、短期的な事業性だけで技術を選別せず、長い時間をかけて蓄積してきた技術を維持できるのです。

また、μSICには、試作コインランドリを運営する共用設備の部門だけでなく、企業との共同研究や国の研究プロジェクトに取り組む部門もあるため、より踏み込んだ研究開発にも対応できます。

利用者から相談を受けた時に、「この方法なら実現できるのではないか」と、具体的に示せることが、μSICの最も大きな強みだと思います。そのために必要な人、設備、技術、運営の仕組みを、15年ほどかけて整えてきました。

工程を理解して自ら判断する。半導体人材の裾野を広げる実践教育

――共用施設の利用者と接する中で、企業の研究開発の進め方には、どのような変化を感じていますか?

半導体は、さまざまな技術やノウハウを積み重ねてつくるものです。以前は、長く現場を経験してきた技術者が、自分の中に蓄積した知識を生かしながら、ものづくりを進めるケースが多かったと思います。

一方、最近は、技術の中身を自分たちで深く扱うよりも、必要なものは外部に依頼してつくってもらえばよいという考え方が、少しずつ広がっているように感じます。人員や投資が限られている中で、汎用的な技術を外部から調達することは、企業として合理的な判断です。

ただ、そこから仕様を変えたり、自社の製品に合わせて改良したりしようとした時に、対応できないという問題が生じます。さらに、経験を積んだ技術者が次々と引退する一方で、その知識やノウハウを次の世代へ十分に引き継げていない状況もあります。

技術を担う人材に空白が生まれ、自社で扱える人が少ないために、半導体分野へ参入したくても踏み出せない企業もあるのではないかと感じています。

――そうした状況に対して、現在進めている取り組みを教えてください。

大切なのは、半導体人材の裾野を広げることです。すでに半導体業界で働いている方だけでなく、これから業界に入る方や、まずは興味を持ち始めた方まで、幅広い層を対象に実習プログラムを行っています。

参加者には実際にクリーンルームへ入り、装置を使いながら半導体の製造工程を経験してもらいます。初めて学ぶ方には、半導体がどのような環境や工程でつくられるのかを感覚として身につけてもらう内容です。経験のある方には、より高度な工程に触れ、スキルを伸ばす機会を提供しています。

参加者は若い方が多く、個人ではなく企業からの参加です。企業の方に話を聞くと、日々の業務が忙しいことに加え、教えられる人材や実習に使える設備、場所が不足しており、社内だけで教育することは難しいという声を聞きます。

その結果、工程の中身を十分に学ぶ機会がないまま、最終的な成果だけを求めざるを得ない場合があります。しかし、結果が得られても、その前提や工程を理解していなければ、課題の設定や解決方法が本当に適切なのかを判断できません。

実際に手を動かして工程を経験することで、結果が生まれる背景まで理解し、自分で判断できる力を身につけてもらうことが大切だと考えています。

――半導体産業の担い手を増やすために、どのような企業や人へ働きかける必要があるのでしょうか?

半導体産業がこれからさらに広がる中では、これまでこの分野に関わってこなかった企業や人にも、活躍する機会があると思っています。一方で、新卒採用だけで必要な人材を確保することは難しいと感じています。ほかの産業でも人材を求めているため、半導体業界だけが十分な人数を採用できる状況ではありません。

そのため、リスキリングや社内での配置転換を通じて、別の分野や業務で経験を積んできた方に、半導体の知識や技能を身につけてもらうことが必要です。実際、最近は半導体分野へ参入しようとする材料メーカーから、共用施設の利用や実習に関する相談も増えています。

そうした要望に応えるためにも、技術系の方だけでなく、文系の方を含め、興味を持った人が必要な知識や技能を学び、この分野へ入ってこられる環境を整えていきたいと考えています。

――産学連携を進める上で、何が大切だと考えていますか?

アカデミアと産業界では、考えていることも、最終的な目標も異なります。大学には研究と教育があり、企業には事業があるため、両者の目標が完全に一致することは、基本的にはありません。

ただ、それぞれが目標へ向かう過程には、重なる部分がたくさんあります。その部分を見つけ、共に取り組むことで、大学と企業の双方が、より大きな成果を得られると考えています。

そうした姿勢の背景にあるのが、東北大学に根づく「実学尊重」の精神です。大学から生まれた成果を産業界で試してもらい、そこで見つかった新たな課題が、大学の研究や教育のテーマになっていく。産業界と大学が一体となって研究と教育を進める文化が、東北大学にはあるのだと思います。

企業・大学・異分野を結び、研究と事業を生み出すRISE-Aの可能性

――半導体産業が再び注目される中で、人と人とのつながりが求められているのはなぜでしょうか?

日本の半導体産業は長い間縮小が続き、その中で、産業を支える企業や人材が減ってきました。大学でも、半導体を教える教員や研究室が少なくなっています。そうした変化の中で、以前は自然に存在していた人と人とのつながりも、少しずつ失われていったのだと思います。

現在は、半導体産業をもう一度成長させようという動きが強まる中で、改めて人とつながりたいというニーズが高まっている状況です。RISE-Aがコミュニティを立ち上げたのは、まさに多くの方が新たなつながりを求め始めた時期であり、非常によいタイミングだったと捉えています。

半導体は、一社だけでつくれるものではありません。材料や装置をはじめ、さまざまな技術を持つ企業や研究者が協力する必要があります。特に新しいことを始める時には、知識や技術だけでなく、誰と一緒に進めるのかが重要です。信頼関係がない状態から、新しい仕事を進めることは簡単ではありません。

だからこそ、継続的に顔を合わせ、互いの強みや課題を知る場が求められているのです。仲間をつくり、それぞれが役割を分担しながら、新しい研究やビジネスへ発展させていく。RISE-Aには、そうした関係を育てる場として、大きな意味があると感じています。

――人が集まるだけで終わらせず、具体的な取り組みを生み出すためには、何が必要なのでしょうか?

場を用意しただけで、自然にプロジェクトが生まれるとは限りません。人と人を結びつけ、共通する課題を見つけ、取り組みを立ち上げ、さらに大きくしていく「キャタリスト」という役割が必要です。

設備共用や人材育成についても、一つの大学や機関だけですべてを担うことは難しくなっています。各地域の拠点がそれぞれの強みを持ち寄り、全国的なネットワークとして支える仕組みが求められているのです。実際、試作コインランドリの取り組みや、半導体の人材育成でも、複数の機関が役割を分担しながら進めています。

RISE-Aでも、すでに新たな動きが生まれています。集まりで知り合った企業から相談を受け、私だけでは対応が難しい分野について、学内の別のコミュニティを紹介したことがありました。一つの出会いをその場限りの交流で終わらせず、実際の仕事やプロジェクトへ発展させることが大切です。

――半導体をつくる側と、それを使う側がつながることで、どのような可能性が生まれるのでしょうか?

私たちの研究開発は、どうしても技術を出発点にすることが多くなります。新しいセンサーをつくることはできても、それがどのような場面で必要とされ、どのような価値を生むのかは、つくる側だけでは見つけにくいものです。

一方で、デバイスからシステムまでを一貫して手がけている企業は、自社の中にさまざまなニーズを持っています。そうした企業と共に研究を進めると、技術をどのように使えばよいのかが見えやすくなり、比較的早く実用化へ近づけることがあります。

つくる側が持つ技術と、使う側が抱える課題が重なることで、初めて価値が社会へ届いていきます。その接点を増やすためには、半導体業界の中だけで集まるのではなく、異なる分野へ発信していくことが必要です。

RISE-Aが、つくる側と使う側を結ぶハブになれば、これまで出会わなかった技術とニーズが組み合わさる可能性も高まります。そこで見つかった課題に対して、素早く試作し、検証しながら改良できる環境まで整えば、新しい研究や事業を生み出す大きな力になると思います。

――最後に、これからRISE-Aを通じて実現していきたいことを教えてください。

RISE-Aには、さまざまな分野で活動するエバンジェリストが参加しています。話をするだけでも非常に楽しいですし、自分だけでは出会えなかった方々とのつながりも生まれています。そうした出会いを、共同研究や新しい事業へ発展させていきたいですね。

私たちは現在、集積回路とさまざまなセンサーを組み合わせることで、新しい付加価値を生み出そうとしています。RISE-Aを通じて、日本が強みを持つロボットや自動車に加え、今後さらに必要性が高まる医療やヘルスケアの分野で、実際に活用されるところまで進めていきたいと思います。

新しい出会いから技術や事業が生まれ、そこで得た経験が次の人材へ受け継がれていく。その積み重ねが、日本の半導体産業を次の段階へ進める力になると考えています。

プロフィール

戸津 健太郎 Kentaro Totsu

現職・役職
東北大学 マイクロシステム融合研究開発センター(µSIC) センター長・教授 半導体クリエイティビティハブ(S-Hub) ハブ長

略歴・キャリア
2004年に東北大学大学院工学研究科機械電子工学専攻博士課程修了後、引き続き同大学において半導体微細加工プロセスに関する研究教育、産学連携に従事。2021年より東北大学マイクロシステム融合研究開発センター長・教授。2010年からは東北大学試作コインランドリの長として半導体微細加工共用施設の運営を行い、利用料収入(2024年度で約3.5億円)で経費の約90%を賄う体制を構築している。2022年より文部科学省マテリアル先端リサーチインフラ(ARIM)高度デバイス領域代表・東北大ハブ長として、半導体の開発を支援している。2024年より技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)を兼業し、人材育成分野の大学・地域・産業連携WGの座長を務めている。また、2024年からは東北大学半導体クリエイティビティハブ(S-Hub)のハブ長として、学内外の学生、社会人向けの半導体教育プログラムも統括している。