2025年12月16日
AI&データ,人材育成,半導体・電子部品関連,スタートアップ/ベンチャー企業
クラウドの可能性にいち早く着目し、情報発信によって未開の領域を切り拓いてきたNTTドコモビジネスの林 雅之氏。領域や立場を越えてつながりを生み出してきたその視点は今、半導体分野へと注がれています。なぜRISE-Aに共鳴し、どんな未来を描いているのか――その想いと構想から、“開かれた半導体”がもたらす次なる産業の姿を読み解いていきます。
――まずは、これまでのキャリアについて教えてください。
キャリアの出発点は、電気通信事業における法人営業でした。ただ、当時すでにネットワークの分野には優れた専門家が多く、自分の力を発揮できる領域を模索する中で、より上位レイヤーに位置するクラウドの可能性に注目するようになったんです。
2012年には、社内で初となるパブリッククラウドサービス「Cloudn(クラウド・エヌ)」の立ち上げ。その後、企業のデータ活用を支える「Smart Data Platform」のマーケティングにも携わり、クラウドを起点に活動領域を広げていきました。
現在はNTTドコモビジネスのイノベーションセンター IOWN(アイオン)推進室に所属し、エバンジェリストの役割を担っています。また、技術戦略部門も兼務しながら、2030年の未来を見据えたテクノロジーマップの策定にも取り組んでいます。
※IOWN:NTTが提唱する、最先端の光技術などを活用して、豊かな社会の実現を目指す次世代情報通信基盤
――キャリアのターニングポイントになった出来事はありますか?
大きな転機になったのは、2007年に情報発信のブログを始めたことです。クラウドという言葉もまだ一般的ではない時代で、私自身も知識が浅く、周囲には専門家が多くいる中、どうすれば自分の存在感を高められるのかを模索していました。
そんな時、あるITイベントで「毎日、自分の専門領域について発信している」という方と出会い、その言葉に背中を押されるように“毎日更新”を始めました。最初は手探りでしたが、日々のアウトプットを通じて、少しずつ自分の言葉で語れる領域が増えていった感覚があります。
その積み重ねが評価され、クラウドに関する書籍執筆の依頼をいただくようになり、これまでに5冊を出版しました。内容はいずれも初心者向けで、難しいことをわかりやすく伝えるというスタンスを大切にしています。
書き続ける中で、学びや出会いが生まれ、それが新たな挑戦の扉を開いてきました。気づけば18年。今も毎日ブログを更新し続けています。
――知識がない中で、どのように情報をキャッチアップし、発信してきたのでしょうか?
もともとは社内にこもって仕事をするタイプでしたが、ある日上司に「外に出て学んできなさい」と促され、思い切って社外の勉強会や研究会に参加するようになりました。そこで出会ったのが、当時急速に盛り上がっていたクラウドのコミュニティです。
ちょうど海外のクラウドサービスが台頭してきた時期で、「国産クラウドで勝負できる」「オープンソースが主流になる」といった多様な意見が飛び交い、まさに群雄割拠の様相でした。
毎日のようにそうした場に足を運び、現場で交わされる議論に耳を傾け、自分なりの視点で発信を続けました。中でもクラウド関連の記事には特に反応があり、SNSでのリアクションを見ながら「これは今後来るな」と手応えを感じていたんです。
当時はまだ深い知識はありませんでしたが、トレンドを分析し、学び、発信する。その循環が、自分自身の専門性と信頼の基盤になっていきました。
――知識を吸収しながら発信し続けることで、活動の幅も広がっていったんですね。
クラウドを起点に、徐々に活動のフィールドも広がっていきました。政府の政策支援では、クラウド推進団体や事務局にも参画し、立ち上げ初期から関与しました。そうした積み重ねが社内でも評価され、自分の役割にも広がりが出てきたと実感しています。
2015年には、AI(人工知能)×ロボットをテーマにした書籍も出版しました。サブタイトルに「機械が考える時代」と入れたのですが、当時としては非常に挑戦的な表現で、出版前にはかなりの議論を呼びました。それも今では、描いていた世界観が現実となりつつあります。
この書籍をきっかけに、総務省のAIネットワーク社会推進会議にも呼んでいただきました。民間と行政、双方の視点を持って、技術を社会にどう実装していくかという視座が得られたと感じています。
クラウドを基盤としながらも、半導体、データ、AI、量子、宇宙といった先端領域へと視野を広げていきました。社会や技術の変化を捉え、次に何が来るのかを探りながら動く姿勢は、これからも変わらない自分の軸だと思います。
――多様な領域へと関心を広げてきた背景には、どのような想いがあるのでしょうか?
未来を描くことが好きで、常に「これから何が来るのか」「そのために今何をすべきか」を意識しています。自己分析ツールでも、もっとも高く出た資質が「未来構想力」でした。
現在取り組んでいるIOWNでは、2030年を見据えた未来ビジョンの実現に向けて、バックキャストの発想でお客様と議論を重ねています。私はいわゆる“営業的な提案”はしません。「社会がこう動くから、こう変化していく」と未来を共有することで、自然と信頼関係を築いてきました。
その中で意識しているのが、常に情報の橋渡し役であることです。オフラインでの対話はもちろん、ブログやSNSといったオンラインの発信も含めて、見返りを求めず、相手にとって価値ある情報を届けていく。そうした活動を通じて、未来の兆しを分かち合いながら、新たなつながりや共創のきっかけを生み出していけたらと考えています。
――林さんはご自身のスタンスを大切にしながら、価値を発揮してきた印象があります。そうした姿勢は、キャリアの選択にも影響を与えているのでしょうか?
そうですね。私はあえて管理職からエキスパート職に転向しました。社内で制度が整ったタイミングで、いち早くその選択をした一人です。以前から、「役職に就いて昇進していく」というルートよりも、現場で手を動かしながら専門性を磨き続けたいという思いが強くありました。
もちろんマネジメントが嫌いなわけではありません。しかし、メンバーの成果物を確認し、一定の品質でゴーサインを出すという役割に、どうしてもジレンマを感じていたんです。また、自分のスキルが徐々に鈍っていく感覚もありました。
だからこそ、自分の手で価値を生み出し続けたいと考え、スペシャリストとして最前線に立つ道を選びました。エキスパート職という選択は、自分らしい働き方を実現するうえで、ごく自然な流れだったと思います。
――現場での実践に加えて、それ以外に注力されているテーマがあれば教えてください。
「次の世代に伝えていかなければ」という想いから、近年は教育にも力を入れています。5年前に「実務家教員養成課程」という専門プログラムを受講し、現在は大学で教壇に立っています。
社内での育成ももちろん大切ですが、学生たちとの対話には、また違った可能性があります。こちらが一方的に教えるというより、むしろ彼ら彼女らの吸収力や視点の柔軟さに刺激を受けることの方が多いんです。
授業では、既存の枠にとらわれず、自分なりのスタイルで伝えるよう心がけています。学生とのやり取りから気づかされることも多く、自分にとっても学びを深める貴重なフィールドになっています。

――多くの業界やコミュニティに参加してきた林さんが考える、半導体業界の課題は何だと思いますか?
半導体業界が持続的に発展していくためには、「次の担い手をいかに増やしていくか」が大きな課題だと感じています。
現在の半導体業界をリードしているのは、長年にわたって知見を蓄積してきたベテランの方々で、そのリーダーシップはこれからも欠かせません。ただ同時に、新たなイノベーションを生み出すためには、若手や異なる分野の人材が入りやすく、成長しやすい環境づくりが必要だと思っています。
――そのためには、どのような環境整備が必要だと考えますか?
日本の半導体業界は、長年培われてきた産業構造が根強く、特にスタートアップが入り込みにくい側面があります。
しかし近年は、AIや量子などの技術革新が進み、プレーヤーが多様化する土壌が生まれつつあると感じています。実際にクラウドの分野では、ネオクラウドと呼ばれるAIに特化したサービスを提供する事業者が登場し、スタートアップ企業が一気に存在感を高めました。
こうした変化の中で重要なのは、「半導体=難しそう」というイメージを払拭し、未経験者や異業種の人たちも自然に関われるような機会や接点を意識的につくっていくことです。
知識や経験の有無を問わず、多様な人が関心を持って参加できる“開かれた半導体”が進めば、これまで交わらなかった視点やアイデアが融合し、新たな連携や価値創出につながっていく。それは結果的に、業界全体の活性化にもつながると考えています。
――業界の新陳代謝を促すには、具体的に何が必要だと感じますか?
半導体のサプライチェーンは非常に複雑で、多くのステークホルダーが関与しているため、量産化や実装には高いハードルがあります。
その中で、特に重要だと感じているのは「ソフトウェアの比率を高めること」です。たとえば、自動運転車のように、ソフトウェアのアップデートで性能や安全性を継続的に向上させる仕組みは、すでに一般化しつつあります。同じように、半導体においても、設計や最適化をソフトウェア側で行える領域を拡大できれば、より多くの企業や人材が参入しやすくなるはずです。
突き詰めると、「サプライチェーンのシンプル化」や「半導体の微細化」によって、3Dプリンターだけで半導体を製造できる世界があるかもしれません。
もちろん、経済安全保障といった要素も複雑に絡み合うため、容易な道ではありません。それでも、こうした視点からの総合的なアプローチが、半導体業界の変革を促すカギになると考えています。
――半導体そのものの在り方を考えていく必要があるんですね。
半導体は、量子やAI、自動車、VR、ドローンなど、さまざまな産業と掛け合わせることで、活用の可能性が飛躍的に広がります。既存の枠組みを超えた発想から、新たな用途や市場が次々と生まれていくはずです。
極端な例を挙げれば、将来的には人間にチップを埋め込み、成長やライフステージに応じてソフトウェアで機能を更新していく――そんな世界が訪れるかもしれません。
こうした大胆な発想で、半導体の存在意義そのものを再定義できる柔軟さと、領域を越えてつなげていく視野を持つ人材こそ、これからの時代に求められていくと感じています。
――RISE-Aにはどのようなことを期待していますか?
RISE-Aは、半導体を起点に多様な産業や人材が交わり、社会実装の芽が育っていく「共創の場」だと捉えています。
今後、半導体の微細化が進むことで、活用の幅は一層広がり、異業種との融合やソフトウェア領域の人材の関与がますます不可欠になっていきます。そうした時代において、RISE-Aは初心者にとっての学びから、専門性の高い議論まで、多様なレベルを受け入れる柔軟なフィールドだと感じています。
なによりも、「社会をどう変えていくか」という問いを出発点に、これまで出会うことのなかった人や企業がつながり、新たなアクションが自然に生まれていく。そうした偶発的な出会いや越境的な連携こそが、業界の可能性を大きく押し広げていくと考えています。
技術や知見を持ち寄るだけでなく、それをどうビジネスとして形にしていくか――その意識を共有する人たちが集まり、実装に向けたリアルな動きが生まれていくことを期待しています。
――エバンジェリストとして、RISE-Aでどのようなことに取り組みたいと考えていますか?
ビジネス視点では、これまで培ってきた知見を活かし、半導体とIOWNをつなぐ「橋渡し役」を担っていきたいと考えています。IOWNはネットワーク基盤として知られていますが、実際には光コンピューティングや光電融合技術といった、次世代の半導体技術とも密接に関わっているんです。
将来的には、電子回路の一部が光半導体に置き換わる世界も現実味を帯びてきています。しかし、技術的に可能でも、量産や実装には依然として高いハードルが存在します。また、技術を社会に届けていく「場」が圧倒的に不足しているのも現状です。
だからこそ、RISE-Aのような産業横断型のコミュニティが果たす役割は非常に大きいと感じています。分野や業界を越えた連携によって、新たなシナジーが生まれ、社会実装に向けた動きが加速する。その起点となる場づくりに貢献できればと思っています。
――個人としては、どのような未来を描いていますか?
半導体業界の次世代を育てることが、個人としての大きなテーマです。半導体は多くの可能性に満ちた分野です。もっと多くの人にその魅力を伝え、興味を持つ仲間を増やしていきたいと考えています。
かつてクラウド業界でも、未来ある人材に発信や挑戦の場を提供することで、新しい担い手が育ち、それぞれが独自のフィールドを切り拓いていきました。人が育つことで、業界全体にも熱量と変化が生まれる――そうした好循環を、半導体業界でも実現できると信じています。
そして、RISE-Aから半導体のソフトウェア分野をリードする人材が育ち、社会に広がっていく未来を目指したいと思います。
――最後に、RISE-Aや半導体に興味を持っている読者に向けて、メッセージをお願いします。
半導体に少しでも興味を持っているなら、勇気を持って飛び込んでみてください。かつては「専門的で近寄りがたい」と思われていた世界も、今では皆さんの多様な視点や経験を持つ人を必要とする、開かれたフィールドへと変わっています。
日本の半導体産業は、再び挑戦のステージに立っています。だからこそ、社会やビジネスと連携しながら、これまでにない価値を生み出していくチャンスがあるのです。
分野の垣根を越えて、ともに盛り上げ、未来の半導体産業を一緒に創造していきましょう。
林雅之 masayuki hayashi
現職・役職
NTTドコモビジネス株式会社イノベーションセンター IOWN推進室 エバンジェリスト
略歴・キャリア
政府案件、クラウドサービスのマーケティング担当などを経て、現在、イノベーションセンター IOWN推進室にてIOWNに関するエバンジェリスト活動、マーケティング、法人プロジェクトなどに関わる。北海道次世代産業振興・まちづくりPT兼務。
国際大学GLOCOM客員研究員。埼玉工業大学 非常勤講師。NewsPicksトピックス「デジタル政策と未来社会」やITmediaオルタナティブブログなどに半導体関連の記事も寄稿。主な著者に『この一冊で全部わかるクラウドの基本 第2版 』『オープンデータ超入門 』『スマートマシン 機械が考える時代』など。