2025年10月03日
人材育成,半導体・電子部品関連,EDA/IPベンダー,スタートアップ/ベンチャー企業
AIST Solutions プロデュース事業本部 AI・半導体事業のプロデューサ、および一般社団法人OpenSUSIのエバンジェリストを務める髙橋克己氏は、RISE-Aのコンセプトに共感し、エバンジェリストとしてRISE-Aへの参画を決めました。半導体業界で幅広くキャリアを積んできた高橋氏に、半導体産業やイノベーションに対する一貫した思いや、半導体産業に感じている課題、RISE-Aに期待することをうかがいました。
――まずは、ご自身のお仕事や活動についてご紹介いただけますか。
国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研)の100%子会社であるAIST Solutionsで、AI・半導体事業のプロデューサを務めております。AIST Solutionsは、2023年4月に産総研の研究成果の社会実装を進めるために設立された組織で、私もそこに寄与できるのではないかと考え、今年(2025年)2月に入社しました。
現在は、2024年4月にAIST Solutionsが立ち上げた一般社団法人OpenSUSIにも携わっています。OpenSUSIは、日本国内の半導体アセットを一部共有化することで半導体産業への参入障壁を下げ、半導体分野における国際競争力を高めることを目的とする組織。私はそのエバンジェリストとして、社会への情報発信などを担っています。
他に、サイバー・フィジカル・エンジニアリング技術研究組合のエバンジェリストや、東京科学大学(以下、科学大) 総合研究院 ナノセンシング研究ユニットの研究員も務めています。科学大では、現在のセンシング技術と半導体のテクノロジーを生かして、何らかのビジネスにつなげることができないかということをテーマに、リサーチしています。また、科学大では、ボランティア活動にも少し取り組んでおりまして。私自身も息子が障がいを持っているのですが、障がいを持つ人の親や家族のサポートにつながる活動を行っています。
あとは、趣味で筋トレをしていて、ボディメイクのコンテストにも出場しています。一昨年は、肉体美を競う「ベストボディジャパン」の日本大会にも出場しました。週5日はジムに通っているのですが、他のことをあまり考えずに集中してトレーニングに取り組む時間がストレス発散にもなっていますね。
――日々お忙しく活動されていますが、そうした活動の源にはどのようなモチベーションがあるのでしょうか。
いろいろなコミュニティや人にアクセスすることでアイデアも想起されますし、関係性も構築していけると考えています。イノベーションはインベンション(発明)とは違って、既存のものをいろいろと寄せ集め、それらを融合させて新たなものをつくっていくことです。一つのコミュニティやその周囲に触れるだけでは発想に限界がきてしまうので、あえていろいろなコミュニティにリーチしたり、いろいろな人と話したりすることを意識しています。また、そうした活動を通して、自分はもちろん、相手にも好影響を与えることができるのではないかと考えています。

――髙橋さんは、技術とビジネスの両面でキャリアを築いてこられています。これまでのご経歴を詳しくお話しいただけますか。
まず、高専を卒業し地元の企業を経て、半導体をはじめさまざまな製品を取り扱うイノテックに入社し、7年ほど半導体製造装置のプロセスエンジニアを担当しました。そこから、半導体設計のソフトウェアの部門に異動。テクニカルマーケティング、ビジネスディベロップメント、技術マネジメント等々と、設計から製造、販売まで、半導体のビジネスプロセスに一通り携わりました。
その後、ケイデンス、シーメンスEDA、シノプシスと、世界的なEDA(半導体開発用ソフトウェア)ベンダーの3社で、サービスとサポートのマネジメントやビジネスディベロップメントを経験。再びイノテックに戻り、新規事業開発を行いました。
イノテックで新規事業開発に着手したのは、半導体を用いた新たなビジネスチャンスがいろいろなところにありそうだと考えたから。世の中はコロナ禍になったばかりのタイミングで、DX化が叫ばれ始めていたことから、そこにチャンスを模索していました。そうした中で、産総研の技術の社会実装を担うAIST Solutionsが立ち上がり、一緒に何らかの新規ビジネスができないかという話が始まりました。AIST Solutionsへの参画は、そのやりとりがきっかけとなっています。
――高専を卒業されてエンジニアになられた方で、ビジネス領域にもキャリアを広げていかれるというのは珍しいのではないですか。
たしかに、高専生は中学を卒業してすぐに専門性の高い道を選び、技術を鍛えられてきた人たちなので、技術をマニアックに突き詰めていくことが好きな人たちは多いかもしれませんね。実はいろいろな人に出会う中で、技術的なことを話していると、なんとなく高専卒の人がわかります。それは相手もわかるらしいのですが、話しながら「ひょっとして高専ですか」と聞くと、ほぼ当たります。そもそも半導体業界には割合として高専卒の人が多いということもあるとは思いますが、尖った技術の要職を務められている方には、特に高専卒が多いような気がしますね。
――面白いですね。髙橋さんがビジネス領域にも興味を持たれたのは、なぜですか。
エンジニアからビジネス領域に関わっていく中で感じたのは、営業やマーケティングだけでは、半導体の事業はうまくいかないということ。戦略を策定するにも、ビジネス的なポイントはもちろん、技術的に大事なポイントもしっかり押さえて、バランシングしたり判断したりしなければなりません。また、技術側にも技術側の思いややりたいことがあるので、それを翻訳してビジネス側と調整することも必要です。そのためには、技術とビジネスの両方を理解している人のブリッジが必要なので、自分がその役割を担えれば、キャリアにおいて大きな武器になるのではないかと考えました。
また、調整役は何かと面倒なので、技術とビジネスの両方が分かっても、それをやりたがる人はそう多くありません。だからこそ自分の強みとして差別化になりますし、誰にでもできることではないので、挑戦してみようという思いがありましたね。
――ビジネス領域に挑戦されたり、EDAの3社を経験されたりとキャリアを切り拓いてきた印象ですが、やはり思い描いたキャリアを着実に歩んでこられたのでしょうか。
思い描いたように美しく進めているかといえばそうでもないのですが、こういうことができたらいいな、こうあれば面白いなと思ったことは、途中修正しながらでもやれてきているなと思います。
技術とビジネスに限らず、人と人、モノとモノ、企業と企業をつなぐことで、シナジーや化学反応を起こせるということには醍醐味があります。多様な国や文化、考えの中で、何をどのように調整して、全体を最適化するか。それが私のやりたいことですし、今でもチャレンジを続けていることです。
――先ほど、そうした役割をやりたがる人は多くないという話もありましたが、髙橋さんにはその素質がもともとあったのですか。
昔からそういう部分は少しあったかもしれませんね。お節介なのかもしれませんが、こうすればいいのにと思うことは、相手に確認した上で調整役を買って出ることがありました。それが自分の個性かなとも思っているので、その個性を仕事に生かすということも考えていますね。
――RISE-Aのエバンジェリストとして参画を決めた理由をお聞かせください。
先ほども少しお話ししたように、イノベーションを起こすには、いろいろな人や情報とのインタラクションが必要です。でも、誰かに会いたいと思っても、調べて連絡を取って会いに行くというのはそう簡単なことではありません。また、これまでも異業種交流会や何らかのセミナーを自ら探して参加して、コミュニケーションを深めてきたという人はいたと思いますが、そうしたことがもっと生きる場があればと考えていました。
特に半導体業界は、狭い世界でありながら、各社の横のつながりがあまりありません。そこをうまくまとめていく機能や場所があれば、日本の半導体産業に足りない部分を補うことができるのではと思っていました。
そうした中で、AIST SolutionsやOpenSUSIを介してRISE-Aの取り組みを知り、私が考えていたことはこれだと思いました。実際にお話もうかがい、ぜひいろいろな取り組みに協力させてくださいということで、参画することになりました。
――かねてから、RISE-Aの取り組みと共鳴する考えをお持ちだったのですね。
そうですね。RISE-Aの活動を通して、半導体産業の発展や人材育成に貢献できればと思っています。
また、そもそも全く業界の異なる三井不動産さんが、半導体に関してこうした取り組みを行っているということにも興味を持ちました。OpenSUSIの活動もRISE-Aと同様に、我々の姿勢や方針、大義といったものに共感してもらえなければ、世の中に浸透させていくことはできません。三井不動産さんは、RISE-Aの取り組みをしっかりビジネスモデルとして定義してやられているということもあって、そうした発想が我々の活動の参考になりますし、我々側からもいい提案ができるのではないかと考えています。
――現在の半導体産業の課題に対して、RISE-Aに期待することは何ですか。
日本の半導体産業は、失われた30年と言われてしまうほど、衰退してきています。しかしここ数年は、国としてもきちんと半導体産業に投資をして、キャッチアップしていこうという機運が高まりつつあります。
そうした中で、製造に関してはいろいろ取り組みが進んでいるものの、設計環境の整備や人材育成はまだまだ課題として残っている状態です。特に人材育成においては、大学などのアカデミアだけでは立ち行かない状態になっており、それ以外にも人材育成に資するネットワークや環境をつくることが必要だと考えています。三井不動産さんがライフサイエンス産業の支援コミュニティとして設立した「LINK-J」では、いろいろなネットワークができ始めていると聞いているので、RISE-Aにも同様の期待をしています。
また、半導体産業は投資金額が非常に大きいので、産学官だけでなく、金融との連携もカギになります。RISE-Aでは、銀行やベンチャーキャピタルなどの金融機関も含めて、いかに産業を育成していくかということにも取り組んでいければと思っています。
それから、私個人としても強く思っているのが、イノベーションにつながる多様性をいかに保てるかということ。やはり新たな視点やアイデアに触れなければどうしても発想が偏ってしまうので、いろいろな人が集まるような場をキープし、その多様性を受け入れて共有できるようにすることが重要だと考えています。RISE-Aには、そうした場や環境の提供も期待していますね。
他にもRISE-Aという場では、半導体業界にチャレンジする中で同じような悩みを抱えている人たちが情報交換を行ったり、着想したアイデアの実現のために設計を依頼できるパートナーを探したりということもできるようになればと思っています。そこから共創が生まれることも考えられますし、そのためにRISE-Aを活用してほしいと願っていますね。
――RISE-AやAIST Solutions、OpenSUSIの活動を通じて、髙橋さんが思い描く5年後や10年後の半導体産業の未来はどのようなものでしょうか。
半導体業界はサイロ化していて、各社が個別で技術を守り、磨いている状態となっています。もちろんビジネスなので他社との差別化は必要ですが、技術のベースには共通する領域もあるため、それを業界内で共有化することで、効率や質の向上、技術の共創が図れると考えています。
特に、現在OpenSUSIがフォーカスしているのは、半導体設計の環境の改善です。現時点では、半導体の製造に興味を持つ人材や企業が現れても、簡単には学べなかったり、多額の資金調達が必要だったりと、非常に高い参入障壁があります。そこで、誰もが半導体設計にトライできるような環境を提供できるようにしたいと考えています。参入障壁が下がれば、業界には多様な人材が集まり、新たなアイデアも生まれます。そうすれば、新たなビジネスの立ち上げにもつながっていくでしょう。
欧州や中国などの海外では、すでにそうした設計環境の立ち上げが進められています。日本でもそうした環境を整え、多様な人材がいろいろな着想をできるようにしていけば、世界での勝ち筋が見えてくるのではないでしょうか。
――最後に、これからの半導体業界を担っていく方や、半導体業界に興味を持っている方に向けて、メッセージをお願いします。
かつて、半導体は産業の米だと言われていました。全ての産業のベースであるという意味なのですが、それは今でも変わらず、AIをはじめとするほぼ全てのものに半導体が関わっています。これから生まれる新しいものも、半導体からつながっていきます。半導体には夢があるので、そうしたものへのチャレンジは非常にいいことなのではないかと思います。
我々も、そうしたチャレンジができる場を提供するなどのお手伝いができればと思っています。ぜひ一緒に日本の半導体業界を盛り上げていきましょう。

髙橋 克己 Katsuki Takahashi
現職・役職
株式会社 AIST Solutions プロデュース事業本部 事業構想部 AI・半導体チーム プロデューサー
一般社団法人 OpenSUSI エバンジェリスト
東京科学大学 総合研究院 ナノセンシングユニット 研究員
略歴・キャリア